WEKO3
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"本研究は,1976年から2005年までに提出された「男性保育者」をキーワードとして持つ研究論文58件について,その研究内容を時系列を基に分析することによって今日の研究動向を探り,男性保育者を取り巻く現状と今後の研究課題を明らかにしていくための手がかりを得ようとするものである。「男性保育者」研究は,それぞれの時代における社会的背景と関連しながら,1977年前後の男性保育者の存在の是非を問う時期を経た後,特に1996年以降,論文数の急増とも相俟って,資質や役割を問う視点が生まれてきたことが明らかになった。本稿では,この男性保育者の資質や役割についての研究を,(1)現場における男性保育者に関する意識調査(2)男性保育者自身の認識の変容(3)ジェンダー等の視点から男性の社会的意義に着目した研究の3つの類型に分けて分析を行った。その結果,これらの研究は類型に関わらず,その存在意義を性役割分業意識に基づく資質や役割を超えたところに見出そうとする視点,つまり性差に関わらず「保育者としての専門性」を求める姿勢を共通軸としてもつことが特徴として見出された。さらに,この専門性追究のために,「保育者としての専門性」探究の端緒としての養成過程のあり方,男性保育者に対する現場の実際と理念の乖離,「自らの保育」を探究するためのキャリア形成に必要な環境,男性保育者を取り巻くコミュニティのもつ関係構造の読み解きなどが,今後必要とされる研究課題として浮かび上がった。", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_10002_full_name_26": {"attribute_name": "著者別名", "attribute_value_mlt": [{"nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "187", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}], "names": [{"name": "Takashima, Keiko"}]}, {"nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "31", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}], "names": [{"name": "Yasumura, Kiyomi"}]}]}, "item_10002_textarea_29": {"attribute_name": "内容記述", "attribute_value_mlt": [{"subitem_textarea_value": "「男性保育者」研究の動向\r\n男性保育者に求められる資質・役割に関する研究動向とその展望\r\n\r\n\r\n1.問題の所在\r\n 近年,保育現場における男性保育者の数は少しずっではあるが増加しつつあり,保育所や幼稚園等においても,その姿を見かけることは珍しくはなくなってきた。\r\n 1977年に,それまで女性のみに限られていた保育士資格を男性が取得できるようになってから約30年が経過し,その間に資格を取得し,それまで女性が大多数を占めてきた保育の現場に保育者として就職し,活躍している男性保育者たちの存在は確実に増加しており,そうした彼らの存在は,保育現場の園長や管理職,女性保育者たちや保護者の男性保育者に対する関心やその存在意義に関する意識の変容を生み,支える礎になってきたと考えられる。\r\n 今年度より,保育士資格と幼稚園教諭免許を取得できる保育者養成課程として「子ども家庭福祉学科」を新設した本学においても,当該学科の男子学生は全体の約4割に達しており,男性保育者に対する社会的認知の高まりを背景に,保育職を志望する男子学生が増加している状況が伺える。\r\n しかし,現状を省みてみると,そうした社会的な関心の高さに比べ,保育現場における男性保育者の受入れ状況が十分に促進されているとは必ずしも言い難い実態が垣間見えてくる。社会福祉施設等調査報告1)によれば,全国の保育所で働く男性保育士は2002年には4,039名となっており, 1992年の同調査では1,000名に満たなかったことを考えると10年間で4倍増していることがわかるが,全体の保育士数(318,418名)と比較するとその比率は約1.3%であり,まだまだ圧倒的に少数派であると言えるだろう。また,幼稚園の男性教諭については,2000年の国勢調査によると,全国の幼稚園教諭96,845名中5,937名(6.1%)となっており,保育士に比べて高い比率となっていることが伺えるものの,幼稚園においては1970年代の調査時から5%前後の比率となっていたため,やや微増傾向にあるとは言え,劇的な変化は認められていない2)。\r\n また,先に挙げた社会福祉施設等調査報告によれば,男性保育士の年齢構成が1991年と2001年では29歳以下の若年層は増加しているものの, 1991年に20代だった層で2001年も残っているのは6割(30代)に,30代だった層では5割(40代)に,40代だった層では2割(50代)に減少しており,女性保育士に比べても,保育職を継続している者が少ない現状が示唆されている。\r\n このような男性保育者を取り巻く現状については,その背景を探り,彼らの保育現場への参加やその職業の継続を阻んでいる要因を明らかにしていくと同時に,保育現場がより多様な可能性に開かれた豊かな実践の場となっていくために,男性保育者に期待されている役割や資質,また彼らがそれを発揮できるような保育の場の関係構造について探究していくことが今後必要になると思われる。それらの課題について検討していくにあたり,本稿では,まず,現時点における男性保育者研究について概観し,その研究動向の分析を通して,男性保育者の現状についてこれまでに明らかにされてきたことと,またこれから明らかにしていく必要があることについて考察し,今後の研究課題についての方向性を見出すことを目的とする。\r\n\r\n2.男性保育者に関する研究論文数の推移とその背景\r\n 男性保育者の研究動向を分析するに当たり,まず,その研究論文数の推移とそれに影響を与えていたと考えられる歴史的な背景について概観しておきたい。\r\n 表1は国立情報学研究所の論文情報ナビゲータ(CiNii)を用いて「男性保育者」および「男性保育士」というキーワードに該当する論文として抽出されたもの(56件)と,そこに挙げられた論文の一連の研究に当たるもの(2件)をピックアップし,研究内容によって,「A:男性保育者に期待される資質一役割」「B:男性保育者の養成に関する報告・提言」「C:男性保育者の登場・ニーズ」「D:その他」の4つのカテゴリーに区分したものである。\r\n表1 男性保育者研究の論文数の推移\r\n 表1を見ると,男性に「保母」資格の取得が認められるようになった1977年の前後には男性保育者の要・不要を問うニーズの調査やその登場の意義について論じた研究が提出されていたが, 1980年代以降は男性保育者に期待される資質や役割を問う研究が主流となってきた。 1977年を一つの夕ーニングポイントとして男性保育者の存在の是非を問う時期が過ぎ,その存在を前提とした上で,どのような資質が求められているのか,果たすべきとされる役割は何か等を問う視点が生まれてきたと考えられる。\r\n また, 1996年以降に研究論文数が急増しているが,これは, 1995年より厚生省(当時)が「保母」の職名の是非について検討を開始し, 1999年に「保母」資格が「保育士」資格へ名称変更される等,男性保育者をめぐる当時の社会的動向3)が保育研究の領域における研究関心やニーズに反映されているものと考えられる。その中でも,とりわけ,男性保育者の資質・役割に関するものが多くなっており,男性保育者の数の増加が質の保証への研究の必要性を促したと考えられる。\r\n そのため本稿においては,上記のカテゴリーの中でも圧倒的多数を占める「男性保育者に期待される資質・役割」に関する研究に着目し,それらの研究の内容と傾向について詳しい分析を試みることとする。\r\n\r\n3.男性保育者の資質・役割に関する研究の動向\r\n 前述したカテゴリーで「男性保育者に期待される資質・役割」に区分された研究は,その内容から,主に, (1)現場における男性保育者に関する意識調査, (2)男性保育者自身の認識の変容に関する研究, (3)ジェンダー等の視点から男性の社会的意義に着目した研究という3つの類型に分けることができる。ここでは,それぞれの項目における研究を通して,男性保育者の資質・役割として何がどのような文脈の中で語られてきたのかをみていくと同時に,その語りがどのように変化してきており,現在のこの時代の中でどのような資質・役割が求められているのかという男性保育者の在り方について探っていきたい。\r\n (1)現場における男性保育者に関する意識調査\r\n 保育現場における園長や同僚となる女性保育者,また保護者が男性保育者をどのように捉え,彼らにどのような資質や役割を期待しているかという意識を探るための質問紙による調査は今回分析対象となった研究論文の中にも数多く見られた。\r\n それらの調査結果の報告を概観すると,現場が男性保育者に期待する資質・役割として,「ダイナミックな遊びや活動」[父親的な役割]「遊具等の修理や力仕事」等,いわゆる「男性的」な特性と考えられるものを生かした役割が挙げられている結果が多いことに気付く。しかし,それらの研究を年代別に追っていくと,時代の変遷と共にそこでの言説が変化してきていることが見えてきた。ここでは,その変化の分析のため,前述の時代的背景を参考に,Ⅰ期:1977年以前」「II期:1978~1995年」「III期:1996年以降」という時期区分を行い,それぞれの時期に見られる特徴を通時的に考察していくこととする。\r\n ①I期(1977年以前)\r\n 男性に対して保母(当時)資格の取得が認められるまでのこの時期においては,男性保育者の資質・役割に焦点化した意識調査は見られないが,男性保育者の必要性について幼稚園・保育所の園長・保育者らに対して行った調査結果を報告している佐々木ら(1976/先行研究No. 1, 2, 3 (巻末に参考資料として挙げた先行研究リストに基づく参照番号。以下,「No.」とする))の一連の研究において,現場の園長・保育者らが回答した男性保育者が必要だと思われる理由が挙げられている。その主なものとしては,「男性的特性を生かせる運動・遊び」「父親的触れ合い」「男らしさ」等があり,性役割分業意識が色濃く反映されている様子が伺える。しかし,この時期はまだ園長職以外の男性保育者が存在する園が非常に少なかったため,佐々木らの研究においても男性保育者と働いた経験のある保育者が少なく,男性保育者について保育現場で話題になることすら稀有であった状況が指摘されている。そのため,「男性」の一般的イメージが先行し上記のような結果が導き出されたと考えることができるのではないだろうか。佐々木らも男性保育者との実際の協働を通して,より具体的・本質的側面への言及が今後出てくるであろうことを指摘していた。\r\n ②II期(1978~1995年)\r\n 男性保育者が実際に保育現場に参入し始めたこの時期における意識調査においても,そうした男性的特性に基づいた男性保育者の資質・役割を期待する調査結果が多く報告されている。男性保育者を採用する立場にある園長を対象とした調査(井村1983/No. 6,米谷・宮本1986/No. 9,米谷・宮本1988/No. 11)では「活動的な遊び・運動」「父親的役割」「力仕事や修理」等に期待が集まっており,それらの期待の仕方には従来の性役割分業意識が残っていることが指摘されている。また,特に,女性よりも保育が活動的で,運動面での活躍が期待されることから幼児(特に年長児)に親近感をもたれやすく,乳児には適さないというイメージも挙げられている。\r\n このような性役割分業が強く反映されていた要因の一つとしては,日本の保育が古くから保育者像の原点に母親をおいていた歴史的背景があったものと考えられる。明治時代における家族主義国家観に基づく良妻賢母の育成を目的とされた女子教育の実習施設として幼稚園が設立されたことからも伺えるように,当時の日本においては,幼稚園は「善キ母ヲ造ル」ために必要な教育施設であると同時に,教育されていない母による家庭の教育よりも質の良い教育を提供する家庭教育の補助機関として位置づけられていたとされる。こうして当時「保姆」と呼称されていた幼稚園や託児所における保育者は,あくまで家庭教育を補完する母親の補いとしての役割を担ってきたのである。その後,家庭とは異なる幼稚園や保育所の保育の持つ意義が認められるようになり,保育者の専門性についても母親とは異なる独自性が認められるようになってきたが,それでも,男性保育者の誕生に伴い,「男性保育者=父親代わり」という発想が生まれてきた背景には,保育の場を「家庭代わり」,女性保育者を「母親代わり」と位置づけてきた日本の保育の初期の保育観・保育者観が根強く残っており,反映されてきたと考えられるのではないだろうか。\r\n ③Ⅲ期(1996年以降)\r\n Ⅱ期までに見られた性役割分業が色濃く反映した男性保育者への捉えも,Ⅲ期に入ると,男性保育者の雇用の拡大に伴い,受入れ現場の意識に次第に変化が見られるようになってきた。また,その背景には意識調査の結果がより詳細に比較検討されるようになってきた分析の枠組みの精緻化も影響していると考えられる。\r\n 例えば,園長・女性保育者や保護者を対象とした意識調査において,男性保育者がいる園といない園との比較が詳細に行われるようになってきたが,このような比較検討の研究結果により,男性保育者のいる園といない園とでは,男性保育者の資質・役割に対する期待内容に差異があることが指摘されるようになってきた。\r\n 鈴木他(2000/No. 28)によれば,保育の上で男性保育者に対して期待される役割について,男性保育者のいる園よりもいない園の保護者の方がダイナミミックな遊びや工作など男性ならではの役割を期待しており,乳児保育には男性は適さないと考えている。また父親の育児参加に及ぼす影響については,男性保育者のいる園よりもいない園の母親の方が期待値が高く,実際に男性保育者のいる園の父親の値はそれほど高くないことが明らかになっている。同様に,斎藤(2003/N0.48)も,男性保育者のいる園の保護者ほど,男性保育者の存在に肯定的であるだけでなく,保育内容については,性差を意識せず保育者としての役割は同じと考えていることを指摘している。\r\n さらに,これまで男性保育者には適さないと言われてきた低年齢児保育さえも,男性保育者と働いた経験のある女性保育者は経験のないものよりも男性保育者の低年齢児担当を積極的に認めており,男性保育者を必要とする傾向があることも明らかになってきた(中田, 2003/No. 50)。\r\n これらの研究結果からは,男性保育者との接触の経験が,それまでの一般的な「男性」のイメージに捉われた期待像からの脱却を可能とし,多様な男性保育者の保育の内実への理解を深める契機となり得ることが伺えるだろう。\r\n しかし,こうした研究結果も決して一義的なものではなく,男性保育者に性差による役割分担は必要ないと語っている意見であっても,その具体的な期待内容を分析していくと無意識的に性差による特性を肯定している場合もあり(竹沢, 1999/No. 26).必ずしも性役割分業意識が男女協働によって低くなってくるとは言えないこともわかる。また,そうした意識に基づいて期待される男性保育者の資質・役割の是非についても一概に語れるものではないため,慎重な検討が必要であろう。しかし,竹沢の指摘する通り,「専門職としての保育者」像を考えた場合,「性別による役割分担の必要性は相対的に低下し,自らの能力や個性の発揮」が求められるようになってくることは確かであると考えられる。\r\n こう七だ研究動向に伴い,少しずつ,それまでの性役割分業に基づく考え方から性別にとらわれない「保育者としての資質」そのものを問う必要性が言及され始めたことは,この時期の大きな特徴であろう。\r\n (2)男性保育者自身の認識の変容について\r\n では,男性保育者自身は,保育現場において必要とされる自らの役割や資質について,どのように考えているのであろうか。男性保育者自身の意識調査を行った研究は数が少なく,その傾向性や歴史的変遷を辿るのは困難であった。しかし,その数少ない研究の中でも,男性保育者自身が現場経験を通して感じた自らに求められる資質として,その7割以上が「性別を超えて保育者に必要な知識・技術」等を挙げていることを明らかにした研究結果(長田1997/No. 17)や,女性保育者と男性保育者の意識に関する比較調査を通して,男性保育者の意義について伝統的性役割観に基づいて考えるものの割合が女性保育者の方が高く(特に男性保育者が勤務していない園の女性保育者にその傾向が強い),存在そのものに意義がある(保育の場に両性が存在すること自体に意義がある)とする考え方が男性保育者に多いことを指摘する研究結果(斎藤2001/No. 36斎藤2002/No. 42)等が報告されており,保育現場の周囲の他者に比べ,男性保育者自身は自らの保育経験を通して,性役割を超えた自身の存在意義や役割について認識し始めている様子が伺えるのではないだろうか。\r\n さらに,こうした男性保育者自身の自らの職業への認識について,彼らの実践経験年数との関連で明らかにしたものに中田(2004/No. 52)の研究がある。中田によれば,男性保育者は経験年数の少ない時期には,自らの役割を「父代わり」として定義し,「身体を使う」保育をしようとする傾向があるが,ある程度経験を積むと,今度は「保育の偏りを是正する者」として自らを位置づけ,保育現場において「男性の視点」を生かしていくことに自らの存在意義を見出そうとする。そしてさらに,かなりの経験年数を積むと,自らを「男性保育者」として意義付けようとする段階を脱し,「子どもの発達を促す者」として位置づけ,そめ定義に基づいて「子どもの発達を促す働きかけ」について考え実践していくという自らの役割に関する自己認識や保育そのものの変容に一連のシークエンスがあるとされる。\r\n さらに,このような男性の自己認識の変容を,中田は男性保育者自身の経験年数による個人の成長物語としてではなく,彼らを受け入れる保育現場における女性保育者達の認識やそこでの人間関係を含めながら分析している。例えば,中田は,男性保育者が「男性」という属性と保育者とを結び付けるために,「父代わり」としての役割を担い「身体を使った保育」を志向する背景には,これまで女性性というジェンダーを基準にしてカテゴリー化されてきた「保育職」に男性保育者が参入したことによって,女性保育者自身も女性としての存在意義を問わざるを得なくなり,その自らの立場を守るために,男性に全ての「保育」を明け渡すのではなく,これまでの保育のスタンダードとして培われてきたものを「女性保育者の保育」として位置づけ,男性保育者に対して「男性保育者の保育」という枠を設けることを求めているのではないかと指摘し,そうした状況の中で,男性保育者自身もまた,経験年数が少ない時期ほど手早く自らの存在意義を高められる方法として男性的な保育を志向していく傾向があるのではないかと分析している。このように保育現場が抱えている人間関係の側面から分析を試みる中田は,男性保育者が自らの役割を「子どもの発達を促す者」としてジェンダーに関連づけずに定義し始める契機としても,女性保育者と保育観について議論し合える関係の構築があったことを指摘しており,それぞれが経験を積み重ねることによって,ジェンダーに関連づけた保育にこだわらず「自らの保育」やその保育観について語り合うことが可能になると,「女性保育者の保育」「男性保育者の保育」という限定された枠から脱却した「自らの保育」を確立していけるようになると考察している4)。\r\n こうした中田の研究は,男性保育者自身の自己認識や保育実践そのものが周囲との関係の中で規定され,生み出されているものであることを示しており,そうした視点からの研究の必要性を示唆している。現段階では,そのような広い視点からの分析と考察に至っている研究はまだ多くは見られないため,今後の研究の方向性を考えていく上でも非常に示唆的であると考えられる。\r\n (3)男性保育者の社会的意義\r\n 男性保育者の役割やその存在意義を,保育関係者や当事者の意識からだけではなく社会的側面から論じようとする研究も,前出の時期区分におけるm期にあたる1996年以降になると見られるようになってきた。\r\n その代表的なものとして木下・齊藤(1997/No. 18).埋橋2002/No.45)らによる研究が挙げられる。それらは,男性保育者の社会的意義を読み解くため,長年,男性保育者を重要な議題の一つとしてきたEuの保育ネットワークプロジェクト(1986-1996年)の業績に着目し,Eu加盟国であるヨーロッパ諸国の実践事例に基づきながら,男性保育者の導入が家庭と保育機関の両方で不在とされる「男性的要素」を補うためではなく,単なる父親の代替を目的としたものではないことを指摘しており,それと同時に,将来の社会を担う次世代の育成という使命を担う場として考えた場合,さまざまな個性を持った人間が存在することが保育環境としても望ましいと論じている。さらに,多様な実態と多様なニーズを抱える子どもたちに応じていくためにも,多様な個性を持った存在がその個性を生かして存在している場が必要であるとされる。しかし,そのためには,ただ男性がそこに存在するだけでなく,Euのプロジェクトが示唆したとおり,両性の保育者が専門性において同質であることも同時に不可欠であるという。すなわち,「保育現場に男女両性がいること,しかし両性は保育者としての専門性においてジェンダー・フリーであることが,子どもに対する男女平等=ジェンダー教育にとっても,親に対するジェンダー・モデルとしても重要」(木下・斉藤, 1997/No. 18)であり,子どもにとっても保護者にとっても,女性保育者,男性保育者双方が,人間として,また保育者としての同質性を認めつつ,その上で異質性も受容していく姿勢を持つことが求められると指摘している。\r\n 保護者に対してのジェンダー・モデルとしての役割については,それに焦点化して論じている研究は少ないが,中田(2004/No. 55)によれば,男性保育者のいる園に通う子どもの家庭は,いない園に通う子どもの家庭よりも父親の育児分担の比率や保育所への送迎率,保護者会等の参加率が高くなる傾向があるとされる。しかし,中田は保育所側にはその効果があまり認識されていないことも併せて指摘し,そのズレが男性保育者への評価の低さにもつながっていると考察している。このような研究結果からは,現実の貢献度と現場の意識との間にズレがあることも明らかになってきており,今後は,男性保育者の存在意義について,単なる関係者の意識調査に留まらず,男性保育者がいることによる実際の効果を保育の実態やそこでの子どもたちや保護者,保育者同士の関係性などに着目しつつ明らかにしていく必要もあると思われる。\r\n\r\n4.全体的考察\r\n性役割分業から「保育者としての専門性」へ\r\n ここまで,保育現場における男性保育者への意識,男性保育者自身の認識とその変容過程,男性保育者の社会的意義等というさまざまな視点から,男性保育者の役割や資質について,従来行われてきた研究の動向とそこで論じられてきたことについて概観してきた。\r\nそこでは,男性保育者について考えるための切り囗や研究の方法はそれぞれに異なっているものの,その存在意義を性役割分業意識に基づく資質や役割を超えたところに見出そうとする新しい視点,すなわち,男女の性差に関係なく「保育者としての専門性」を求めようとする姿勢が,近年の研究の多くに共通して見られることが明らかになった。\r\n しかし,その一方で,保育現場における男性保育者に対する意識としては,まだまだ従来の性役割分業に基づいた資質や役割への期待が根強く,そこから抜け出せていない現状も伺える5)。研究論文の中では,既に,男性保育者登場直後から,「保育者は伝統的な性役割観念にとらわれることなく,男女共に,多様なモデルの一人として,自らより豊かな人間像を追求すべきである」(庄司, 1979/No. 4)と論じられてきたが,紙上の理念と現場の意識との間には,現時点においてもズレが存在していると考えざるを得ない。\r\n こうした現状を踏まえると,保育者養成機関として,男性保育者を雇用する保育現場の意識を探り,そこで期待される男性保育者の資質や役割について考慮した上で,雇用の拡大を図っていく努力は必要であると考えられる。しかし,それと同時に,多くの研究成果によって示唆されているように,専門性を担う保育者として共通に必要とされる「保育者としての資質」を男女問わず獲得できるようなカリキュラムの構築も必要であろう。木下・斎藤(1997/No.18)らによれば,「乳児保育は男性には不向き」というような,性差による特性の一つとして従来考えられてきたものも,実は,男性が乳児を含む「保育のプロ」として十分に教育されてこなかった養成の問題や,女性が伝統的性役割観に支配されている問題を反映していると考えられ,今後の養成教育においては,ジェンダー教育を含めて男女を問わず保育者に求められる職業的専門性を意識的に追求していく必要があると指摘している。また,保育現場における職務について,伝統的な性役割観にとらわれない意識を育てていくにあたっては,養成課程における男女共学の環境が少なからず影響を及ぼしていることも指摘されている(井村, 1984/No. 7)。学生時代から共に身近に学び合うことによって,ステレオタイプ化された一般的な性差による特性でなく,男女が互いに個々の多様な個性があることを知り,認め合えるようになっていくとすれば,保育現場においてそれぞれの多様な存在意義を認め合う関係を構築していく上で,その前提となる姿勢を学べる共学の保育者養成課程の意義も小さくはないと思われる。\r\n これらの問題を視野に入れ,今後の研究の課題としては,男性保育者の存在意義についての保育現場の意識が,男性保育者の存在の有無によって異なるという先行研究の成果を踏まえ,男性保育者の存在の有無が,現場の意識にもたらす影響について明らかにしていく必要があるだろう。また,それと同時に,男性保育者の存在意義を関係者や当事者の意識から探るだけでなく,実際の保育の実態を通して,男性保育者が存在することによる有効性を実証的に明らかにしていくことも必要になると思われる。\r\n また,保育者としての実践経験の積み重ねが,性役割分業意識から解き放たれて,男女を問わず,保育者としての自らの専門性を考え,探究する姿勢への変容をもたらすことも指摘されており(中田,2004/No. 52),保育者としてのキャリア形成にかかる時間を考えると,採用時の問題だけでなく,保育者としての仕事を継続していけることが必要であると考えられる。彼らが,「自らの保育」を探究し構築していくためにも,彼らのキャリア形成に必要な環境について検討していくことが必要であろう。\r\n 中田(2002/No.39,2004/No.52)らの研究からも示唆されるように,男性保育者の保育が,その周囲の関係性の中で規定され,創出されているものであることも見逃すことのできない重要な視点である。近年,個人の「能力」や「特性」をその個人に帰属するものとして捉える「個体能力論的」パラダイムについては,発達心理学や認知科学,教育学等の研究領域においてもその問題性が指摘されており,個人の在りようを規定しているその場の関係構造を読み解いていく「関係論的」視点の必要性が論じられている。男性保育者に限らず,保育者が実践の場の中で発揮している「力」やそこで見られる「特性」は,その場のコミュニティの持つ複雑な関係構造の中で立ち現れてきているものであり,その要因や問題性を探っていくとすれば,そうした「力」や「特性」を浮かび上がらせている背後の関係の構造を丁寧に読み解いていくパラダイムの転換が必要となると考えられる。\r\nそれぞれの保育者がその多様な個性や資質を豊かに発揮することができ,その在りようが多様に保障されるような保育の場の構造を明らかにしていくことによって,子どもたちにとっても,多様な可能性を開く豊かな保育環境を保障していくことに繋がっていくのだと思われる。そのためにも,今後の研究の方向性の一つとして,男性保育者を巡る周囲のコミュニティに着目し,彼らの保育を規定し,制限している枠組みがあるとすれば,それはどのような関係構造になっているのか,また,彼らが子どもの発達を支える一人の保育者としての専門性を発揮していける場とはどのような関係性に支えられて構成されているのかを明らかにしていくことが求められてくるのではないだろうか。\r\n\r\n【参考文献】\r\n金田利子・諏訪きぬ・土方弘子編著,2000『「保育の質」の探究-「保育者一子ども関係」を基軸として-』ミネルヴア書房\r\n小崎恭弘, 2005『男性保育士物語-みんなで子育てを楽しめる社会を目指して-』ミネルヅア書房\r\n諏訪義英, 1992『日本の幼児教育思想と倉橋惣三』新読書社\r\n全国男性保育者連絡事務局編, 1997『「保父」と呼ばないで-これからのゆたかな保育のために-』かもがわブックレット\r\n中田奈月, 2004「「保育者」言説の変遷-厚生労働白書の分析から-」『奈良佐保短期大学紀要』11,奈良佐保短期大学:17-29\r\n中田奈月, 2006「女性保育士における専門性と女性性-主観的キャリアの分析から-」「奈良女子大学社会学論集」12,奈良女子大学:129-144\r\n\r\n【資料】\u003c本研究で分析対象とした先行研究リスト〉"}]}, "item_creator": {"attribute_name": "著者", "attribute_type": "creator", "attribute_value_mlt": [{"creatorNames": [{"creatorName": "高嶋, 景子"}], "nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "185", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}]}, {"creatorNames": [{"creatorName": "安村, 清美"}], "nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "186", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}]}]}, "item_files": {"attribute_name": "ファイル情報", "attribute_type": "file", "attribute_value_mlt": [{"accessrole": "open_date", "date": [{"dateType": "Available", "dateValue": "2013-03-12"}], "displaytype": "simple", "download_preview_message": "", "file_order": 0, "filename": "1_11.pdf", "filesize": [{"value": "1.2 MB"}], "format": "application/pdf", "future_date_message": "", "is_thumbnail": false, "licensetype": "license_11", "mimetype": "application/pdf", "size": 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「男性保育者」研究の動向 : 男性保育者に求められる資質・役割に関する研究動向とその展望
https://dcu.repo.nii.ac.jp/records/14
https://dcu.repo.nii.ac.jp/records/144a0c7e2b-cde9-42f7-9b88-c8636ac70001
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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本文(PDF) (1.2 MB)
|
Item type | 紀要論文 / Departmental Bulletin Paper(1) | |||||
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公開日 | 2013-01-21 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 「男性保育者」研究の動向 : 男性保育者に求められる資質・役割に関する研究動向とその展望 | |||||
タイトル | ||||||
言語 | en | |||||
タイトル | Recent trend of studies on "Male childcare workers" | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
キーワード | ||||||
主題Scheme | Other | |||||
主題 | 「男性保育者」研究 | |||||
キーワード | ||||||
主題Scheme | Other | |||||
主題 | 現場 | |||||
キーワード | ||||||
主題Scheme | Other | |||||
主題 | 資質・役割 | |||||
キーワード | ||||||
主題Scheme | Other | |||||
主題 | 性役割分業 | |||||
キーワード | ||||||
主題Scheme | Other | |||||
主題 | 保育者としての専門性 | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_6501 | |||||
資源タイプ | departmental bulletin paper | |||||
著者 |
高嶋, 景子
× 高嶋, 景子× 安村, 清美 |
|||||
著者別名 | ||||||
識別子Scheme | WEKO | |||||
識別子 | 187 | |||||
姓名 | Takashima, Keiko | |||||
著者別名 | ||||||
識別子Scheme | WEKO | |||||
識別子 | 31 | |||||
姓名 | Yasumura, Kiyomi | |||||
抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 本研究は,1976年から2005年までに提出された「男性保育者」をキーワードとして持つ研究論文58件について,その研究内容を時系列を基に分析することによって今日の研究動向を探り,男性保育者を取り巻く現状と今後の研究課題を明らかにしていくための手がかりを得ようとするものである。「男性保育者」研究は,それぞれの時代における社会的背景と関連しながら,1977年前後の男性保育者の存在の是非を問う時期を経た後,特に1996年以降,論文数の急増とも相俟って,資質や役割を問う視点が生まれてきたことが明らかになった。本稿では,この男性保育者の資質や役割についての研究を,(1)現場における男性保育者に関する意識調査(2)男性保育者自身の認識の変容(3)ジェンダー等の視点から男性の社会的意義に着目した研究の3つの類型に分けて分析を行った。その結果,これらの研究は類型に関わらず,その存在意義を性役割分業意識に基づく資質や役割を超えたところに見出そうとする視点,つまり性差に関わらず「保育者としての専門性」を求める姿勢を共通軸としてもつことが特徴として見出された。さらに,この専門性追究のために,「保育者としての専門性」探究の端緒としての養成過程のあり方,男性保育者に対する現場の実際と理念の乖離,「自らの保育」を探究するためのキャリア形成に必要な環境,男性保育者を取り巻くコミュニティのもつ関係構造の読み解きなどが,今後必要とされる研究課題として浮かび上がった。 | |||||
書誌情報 |
田園調布学園大学紀要 en : Bulletin of Den-En Chofu University 巻 1, p. 139-152, 発行日 2007-03-17 |