WEKO3
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"2000年4月の介護保険制度の施行,同年の社会福祉法の成立により,介護及び福祉領域におけるサービスが利用者の選択により利用される仕組みへと変更された。このことは,従来の措置制度における行政処分から権利としてのサービス利用,契約によるサービス利用へと転換するまさにパラダイムの転換による制度変革であった。これにより,サービス提供事業者は,利用者と相対して契約を交わし,契約に基づいてサービスを提供することとなり,そのことは一方では,サービスの市場における競争を喚起しサービスの質を向上させ,利用者から選ばれる事業者となる必要性を生じさせた。従来,介護保険制度における各サービスの運営基準や社会福祉法によって利用者の保護のために規定された諸規制が,事業者の立場からは,利用者保護の必要性を理解しつつも事業者の契約行為に対する制限と受け取られ,契約に対する消極的イメージを払拭できない状況があった。従って本研究では,サービスの質を高める契約のあり方について論じるため,まず措置から契約への制度転換の歴史的経緯とその意義を確認すると共に,民法上における契約の意味を明らかにする。そして,それらを通して,介護サービス利用契約が一般の契約と異なる特徴を整理し,利用者保護の必要性を論じる。次に,既に実施された介護契約に関する調査,介護支援専門員の業務に関する実態調査等の結果を踏まえ,その他の文献から得られた契約とサービスの質に関する視点等から,事業者の契約をめぐる体制,契約締結過程,契約履行過程,契約更新過程等についてその実態や問題点を整理し,契約の概念や理論を概観する。その上で,サービスの質を高める契約の姿・方向性について考察を加え,事業者が契約を媒介し活用して,サービスの質を高める取り組みを行うことができる可能性とその条件を検討する。", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_10002_full_name_26": {"attribute_name": "著者別名", "attribute_value_mlt": [{"nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "1259", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}], "names": [{"name": "Kanai, Mamoru"}]}]}, "item_10002_textarea_29": {"attribute_name": "内容記述", "attribute_value_mlt": [{"subitem_textarea_value": "サービスの質を高める契約のあり方についての研究\r\n介護契約に関する文献レビューを通して\r\n金井 守\r\nI はじめに\r\n2000年4月の介護保険制度の施行,同年の社会福祉法の成立により,介護及び福祉領域におけるサービスが利用者の選択により利用される仕組みへと変更された。このことは,従来の措置制度における行政処分から権利としてのサービス利用,契約によるサービス利用へと転換するまさにパラダイムの転換による制度変革であった。これにより,サービス提供事業者は,利用者と相対して契約を交わし,契約に基づいてサービスを提供することとなった。また,事業者は,サービスの市場における競争を通してサービスの質を向上させ,利用者から選ばれる事業者となる必要性が出てきた。\r\n 一方,競争原理が働き市場が健全に機能するためには,利用者が複数のサービスの中から自分に合ったものを選ぶことが可能となる多様な選択肢が供給されなければならない。しかし,介護保険制度の導入によりサービス供給量がそれまでと比べ大幅に増えたとは言え,地域やサービスの種類によっては,選択肢がない場合も多くみられた。また,選択肢があったとしても,それらの情報が利用者に開示されることも少なかった。\r\n このような中,介護サービスにおける契約について,利用者の権利保護の観点から論じられる文献が圧倒的である。これは,事業者と利用者の間に情報の非対称性や交渉力の格差等一般の消費者にも該当する格差が存在する上に,認知症による判断能力の衰えなど社会的弱者である介護サービス利用者を保護し対等な契約の一方の当事者としての位置づけを確保する必要性があることは明らかである。\r\n しかし,介護サービスの目的は,サービスの提供を通して,利用者の生活が安定し,利用者のその入らしい生活が進展し自己実現できることである。単なるサービスの売買ではなく,人間とその生活に関わる公的福祉の向上という使命を担っているのである。そのため,利用者と事業者がこの目的に向かって協働する関係をつくる必要がある。それは互いの信頼関係によって維持されかつ発展するものである。\r\n この研究では,介護現場における契約にかかる実態と課題を概観した上で,一層の利用者保護の強化の必要性を確認しながら,事業者が,契約についての消極的イメージを払拭できない状況がある中で,契約をサービスの質の向上の機会として積極的にとらえ,契約に対して主体的に取組む可能性を探っていく。\r\nⅡ 措置から契約へ\r\n 2000年4月の介護保険制度の施行により,介護サービスが利用者の選択により利用される仕組みへと変更された。このことは,従来の措置制度における行政処分から契約によるサービス利用へと転換する制度変革であった。この歴史的変化を「措置から契約へ」と言う標語で一般的に要約している。ここでは,そこへ到る経緯とその意義を論じる。\r\n 1994年という年は,日本の高齢化率が14%を超えた年であったが,同年4月,政府は厚生省内に高齢者介護対策本部を設置した。そして,介護問題をめぐる基本的な論点や考え方を整理するため,学識経験者による「高齢者介護・自立支援システム研究会」を開催した。その成果が,同年12月「新たな高齢者介護システムの構築を目指して」と題した報告書である。\r\n この報告書では,措置制度の問題点と契約によるサービス利用の必要性を以下のように論じている。高齢者介護については,これまで福祉,医療などの現行(当時の)システムがそれぞれ個別に対応してきた。福祉領域では,行政機関である市町村が各人の必要性を判断し,サービス提供を決定する仕組みである措置制度を基本としていた。措置制度は,資金やサービスが著しく不足した時代にあっては,サービス利用の優先順位の決定や緊急的な保護などに大きな役割を果たし福祉の充実に寄与してきた。しかし,措置制度の本質は行政処分であり,措置されるという言葉そのものへの違和感,利用者が自らの意思でサービスを選択できないこと,所得審査や家族関係などの調査を伴うこと,財源が一般会計に依存しているため財政的コントロールが強くなりがちであることなど,大きな限界に直面している。その上で,新たな基本理念の下で,新介護システムの創設を目指すことを提唱した。その基本理念は,高齢者が自らの意志に基づき,自立した質の高い生活を送ることができるよう支援すること,即ち,高齢者の自立支援である。\r\n そこで,高齢者自身による選択を基本的考え方とし,「与えられる福祉」から「選ぶ福祉」へ転換し,介護が必要になった場合には,高齢者が自らの意志に基づいて,利用するサービスや生活する環境を選択し,決定することを基本に据えたシステムを構築すべきである。そして,サービスの利用システムは,契約方式を原則とする,とした2)審議会報告,諮問,介護保険法制定\r\n 老人保健福祉審議会最終報告(1996)では,介護保険制度の基本的目標の一つに「高齢者自身による選択」を掲げた。そして,介護サービスの利用方法に関する基本的な考え方として,「高齢者が自らの意思に基づいて,利用するサービスを選択し,決定することを基本に,それを専門家が連携して身近な地域で支援する仕組みを確立する必要がある」とした。ケアプラン作成についても,「本人の希望に基づくことを基本としており,どの作成機関に依頼するかも本人が選択することになる」とした。\r\n 介護保険制度案大綱(1996)においては,介護保険制度の基本的考え方として,「自らの意思でサービスの利用を選択でき,ニーズに即した介護サービスが総合的・一体的に提供されるような利用者本位の制度とする」と明示した。\r\n 介護保険法(1997年制定)では,「保険給付は,被保険者の選択に基づき,適切な保健医療サービス及び福祉サービスが,多様な事業者又は施設から,総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。」(第2条第2項)としている\r\n〔小括〕このように高齢者介護の分野で,利用者が自らの意志に基づいてサービスを選択し契約を交わして利用することが議論され,契約によるサービス利用が制度としてスタートした。新しい制度の下では,行政は,財政支出や制度運営の基盤整備,公的見地からの利用者保護のための規制は行うが,これまでの措置制度で行ったような個々の高齢者に対するサービスの決定とサービス提供には関わらず,それは,基本的に利用者と事業者の契約にゆだねられることとなった。利用者と事業者とが協力して豊かなサービス内容を創っていくことが期待されたのである。ただし,虐待等のため自らサービスを利用できないような場合は,措置が適用される,との留保がある。\r\nⅢ 介護契約及び業務の実態と課題\r\n それまでの措置と異なり,契約を交わしてのサービス提供が始まった。私自身,当時高齢者施設に身を置き,この激変ともいうべき事態をつぶさに体験した。多くの事業所が比較的大きな問題なく契約書を交わすという点では適応していったという印象があるが,契約に対するとまどいがあったのも事実であった。ここでは,介護契約の実施状況,現場職員の意識状態等の実態と見えてくる課題を整理する。\r\n1)契約の実態と課題\r\n(1)2003年,福祉契約研究会と東京都が共同で実施した「介護保険サービスの利用契約等に関するアンケート調査」の結果によると,契約締結過程では,事業者が困っていることは,契約内容を理解してもらえないこと等であり,家族の立会いを求めている状況がある。契約の当事者性の問題では,本人の判断能力が落ちているため家族その他が署名する例が多数あり,利用者の意思による選択という制度の根幹に触れる問題であり,利用者の意思確認の問題,利用者の最善の利益についての判断,法的な問題など課題は多い。\r\n一方,利用者の関心はなんと言っでもサービス内容と料金にあるが,事業者の説明の重点との間にずれがある。事業者にとって,利用者が理解できるようにサービス内容をいかに説明するかが重要である。\r\n大沢は,利用者の家族その他が代理権のないまま契約書に署名していることを問題にし,契約が有効に締結されるよう,事業者等が成年後見人の選任をもとめることができるドイツの例を参考にすべきであると説いている。\r\n2003年,橋爪等が実施した「契約書サンプリング調査」の結果によると,東京都のモデル契約書よりさらに詳しく規定を設けている契約書があることは,サービスの質を高める契約のあり方を検討する本研究にとって参考になる。計画変更の場合の事前協議や説明と同意を重視することは,サービス内容について利用者と十分なコミュニケーションをとろうとする姿勢があり歓迎したい。介護保険対象サービスとそうでないサービスの具体的規定等も同様である。また,苦情を申し出た者の不利益取り扱いを禁止する規定及び訪問介護員の交替についての規定の付加も参考になる。\r\n一方,モデル契約書を削除・修正しあるいは付加して利用者に不利になるような例もある。サービス記録表の控えを交付すべき規定を削除したもの,契約終了の2日前までに申し出ればよいものを7日前や30日前に延長している例かあった。また,賠償責任ついて事業者の免責を詳しく規定した例がある。橋爪は,モデル契約書と実際に用いられている契約書との差異を踏まえ,現実的で利用者本位である契約書を作成することが望まれるとする。\r\n(3)2004年から2005年にかけて,脇野等が行った「介護保険指定事業者に対する訪問聞き取り調査」の結果によると,契約導入の目的である権利擁護の趣旨がどれだけサービス提供現場に生かされているか,聞き取りの結果,利用者への契約内容の説明と配慮については,事前に契約書を渡しておき契約締結時に重点的に説明する方法などがあった。事業者は損害賠償と免責事項,契約の終了に関する条項などを重点的に説明するが,利用者は,サービス内容や費用等に関心があり(これらは重要事項説明書の内容に該当),契約書には関心が薄いことが事業者の悩みになっている。サービス提供における契約の位置づけについて,多くの事業者は,利用者との人間的な信頼関係の構築を強調する。\r\n脇野は,このことが,利用者の契約に対する意識と表裏をなしているとし,事業者として,形式的に契約書を取り交わすが,当事者双方に,「契約は契約,サービス提供はサービス提供」と言う認識が生じる,とする。脇野は,総括として,事業者が契約に慣れてきたことを踏まえても,「実際に事業者が慣れつつあるのは,あくまで契約の締結およびそれに必要な利用者への説明という作業のみにとどまり,サービス提供における契約の位置づけや,契約書の役割をどのように理解すべきか,という根本的な点については,事業者,さらには,利用者の戸惑いはむしろ増大しているように思われる。」と言う。そして,「このような現場における認識と,法律上の制度が実現しようとしている利用者の権利擁護やサービスの質の向上という理念との関係をどのように理解し,その融合をはかるべきか,今後この点が明らかにされていく必要があろう」と結んでいる。\r\n2)サービス提供にかかる職員の業務実態と課題\r\n (1)契約とサービスの質\r\nサービス提供場面における職員の業務と契約との関係をどのようにとらえるかという問題については,一般のサービスと異なる介護サービスの特質から考えていく。介護サービスの特質について,白井は,次の5点を挙げる。①利用者が契約当事者として前面に登場すること,②利用者の多くが高齢者で判断能力が低下していたり,契約に関する情報が不十分であること,③公的福祉サービスを購入するという戸惑いがあること,④サービス利用契約が信頼関係に負う継続的契約であること,⑤利用者はこのサービスを受けなければ生活を維持できないこと。\r\nまた,平野は,「福祉的契約」と称し,その特質として,①契約に一定の価値観や目的性が含まれていること,それに伴い,「評価」と言う要素が加わること,②契約内容が,生活動作を細分化する「切り取り型」でなく,生活をある程度のまとまりを持ったものととらえる「包含型」としての性格を有すること,③契約関係の非対称性(介護される側・介護する側という意識)があること。\r\n笠井は,「福祉契約」と称し,その特質を,選択に資する「情報提供」や履行過程おける「説明行為」の重要性,変化するサービス内容を確定するための「再交渉」の可能性,継続的契約関係という特質と契約解消及び契約終了後の問題,サービスの質の評価の契約法への取り込み等を論じている。\r\nこれらの所見から,「わかりやすい情報提供」「利用者が契約当事者として主体性を確立する支援」「サービスの継続性」「福祉目的実現への志向」「サービスの質の評価」「生活とサービスの広がり」「契約履行過程における説明と交渉」をキーワードとして,契約とサービスの質の対応関係を考えていく。\r\n(2)契約の枠組みとサービスの質\r\n以上から得られる視点を基に,契約の各場面とサービスの質の要点との対応関係を以下のような表にして示す。この対応関係を参考にして,以下の業務調査の整理を行うこととする。\r\n表1「契約の枠組みとサービスの質の要点との関係」\r\n(3)2003年に三菱総研が行った「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員業務の実態に関する調査研究」によると,介護支援専門員として,対応困難ケースを抱え,仕事を抱え込んでいる状況や連携や会議が持ちにくい状況があり,サービス提供状況の把握などモニタリングが十分でない。したがって,自分に自信がなく仕事の満足も十分でない状況であることが明らかになった。\r\n介護支援専門員の役割は,利用者のニーズと希望を把握し,多様な事業者から適切なサービスが継続して提供されるようにすることである。それは,利用者をサービスにつなぎ,利用者が事業者とサービス利用契約を適切に結ぶことができ,サービス利用を継続し契約更新ができるよう支援することである。従って,介護支援専門員の役割は,利用者が契約を交わすことを支援することであると言える。この調査結果からは,介護支援専門員に対する支援,即ち介護支援専門員の力量を高め業務状況を改善することが,介護契約にかかる問題状況の改善につながるものと考えることができる。\r\n(4)1999年,全国社会福祉協議会によって行われた,「ホームヘルプサービスにおける身体介護の標準的な実施手順と所要時間」の調査研究結果によると,この調査研\r\n究が,介護保険制度施行に当たり,介護報酬との関係でサービスを標準化する必要があったことなとがら実施された。この事業の意義について,報告書では,①「身体介護をわかりやすく説明する」として,訪問介護計画作成の根拠ができ利用者・家族への説明がしやすいこと,また,利用者のできること・できないことを踏まえ,ヘルパーのすべきことを計画段階で約束しておくことができるO②介護支援専門員が居宅サービス計画を適切に作成する目安とすることができる,と述べている介護契約において,個別で具体的なサービス提供は居宅介護サービス計画及び各サービス計画(訪問介護計画等)によって提供される。従って,いわゆる契約書は契約の骨格であり,サービス計画書が肉付けの部分になり,両者を含んだ全体が介護契約と考えられる。利用者にとってその生活に直接影響する部分であり,自立支援の介護サービスにとっては,利用者と事業者が協働していく必要がある場面である。この部分に契約がどのように関わるかが問題であり,サービス計画とその実施が問題を解く重要なファクターであると言える。\r\n〔小括〕介護契約の実態は,全体として,事業者は形式的ではあるが契約を交わすことに慣れてきているものの,サービス提供に当たり契約に積極的意義を見いだしにくい状況にある。一方,利用者は,サービス内容や料金についてはそれなりの関心を持っているが,契約内容の理解については十分ではなく,契約書そのものへの関心も薄い。\r\n 課題としては,利用者の契約当事者としての位置づけが確立しておらず,法的権限のない家族その他の者が契約を交わしている問題がある。また,事業者が利用者の不利になるような条項を作成している場合があり問題である。 今後の契約のあり方の進展に示唆を与える事例もある。契約変更の場合に事前協議を設定するなど利用者とのコミュニケーションを深めていく前向きな方向を確認できる。\r\n 「契約は契約,サービス提供はサービス提供」とならないために,契約とサービス提供をつなぎ,この両者の関係を継続し強めていく必要がある。調査結果から,契約支援者としての介護支援専門員のケアマネジメント機能のあり方,契約締結と契約履行の接点に位置する「サービス計画」及び契約履行を意味する「サービス計画の実施」のあり方が,このことを考えるヒントになるのではないだろうか。\r\nⅣ 契約の理論\r\n これまで,福祉や介護の領域に契約制度が導入された経緯,契約に対する取り組みの実態や抱える課題をみてきたのだが,ここでは,契約とはそもそもどのようなものなのか,人間と社会に対する契約の意味や役割を探り,福祉や介護領域における契約のあり方の考察へとつなげていく。\r\n1)契約の思想\r\n (I)契約の本旨(旧約聖書における愛と契約)\r\n旧約聖書では,神ヤハウェとその民イスラエルの関係を愛で結ばれる関係としてとらえている。同時に神と民との間の契約関係としてとらえている。月本は,この両者の関係を「愛を持続させるためには意思の力が必要であるが,このような契約こそはその意思の力の源泉である」\r\nこの神と民との信仰における契約関係と,高度に産業化した現代の市場における契約関係とを同列に論じることはできないが,互いの約束を社会に公表し持続発展させるという契約の本旨は変わらないと考えたい。社会福祉事業と利用者に対する情熱(愛)は契約によって支えられ力を得ると言っては果たして言い過ぎであろうか。\r\n (2)信義誠実の原則(民法の契約概念)\r\n森泉は,契約は,当事者相互の信頼の基礎の上に成り立っており,契約当事者は,相互に信頼しあい,その信頼にこたえるよう行動しなければならない(これを信義誠実の原則という)と言い,契約当事者は,社会的意義のある共同体を構成し,密接な結合関係にある,とする。\r\n福祉や介護の領域における契約は,一般に医療などと同じ準委任の契約類型であるとされており,売買契約など他の契約類型と比べ一層の信頼関係が必要とされる契約類型である。相互に信頼し,協力関係を持ち,それを継続し発展させて結合関係を強めていくことが,両当事者に強く要請されている。\r\n2)介護契約に対する理論的立場\r\n ここでは,福祉や介護の領域における契約の位置づけについて,学問的にどのようにとらえているかを,いくつかの立場に分けて整理する。福祉や介護領域における契約導入の意義を積極的に認める論を積極的立場とし,そのことに限界を認めて特別の立法を志向する論については,消極的立場とした。なお,契約導入を理論上否定する論は過去にはあり現在も論としてはありえても,介護保険制度が運営され,利用者が契約によってサービスを利用することが社会全体の主要な体制になっている現時点で,そのような理論の存在を確認できていないので,取り上げない。\r\n(1) 積極的立場\r\n ①本間は,市民の立場から,介護保険制度における契約制度の導入について,相互に交した契約書が利用者に交付されるなど事業者・利用者双方の意識改革に大きく寄与した。また,これは出発点にすぎず,今後利用者本位のサービス提供を進めていくうえで大きな意味を持っているとする。そして,サービスを向上させるためには,利用者・市民・事業者が同じ方向に向かい,協力すべきことを求めている。\r\n ②平野は,契約を媒介とする利用制度は,利用者と事業者の関係を直接的で対等なものとし,利用者の当事者性を明確にする意義があり,適正な契約方法の実施が今後の社会福祉の帰趨を決するとする。そして,「福祉的契約」を提案するとして,福祉領域における契約の特質(契約とサービスの質の項を参照)を踏まえた福祉的契約が成熟していくことが今後の福祉にとって期待されているとする。\r\n ③笠井は,福祉契約の登場は契約法に少なからぬインパクトを与えつつあり,契約が福祉の手段たりうるために契約法はどのような役割を果たすべきかを積極的に問うている。社会のセーフティネットとしての福祉に関わる契約法理論が,新しい使命にふさわしい理論的整備を必要としているとする。\r\n ④権利擁護論 契約による福祉サービスの利用関係において,利用者の人権や生存の権利をどのように確保するかという権利擁護システムの確立が課題である。そして,権利擁護の主要な課題として,利用者の権利保障規定の明確化,事業者と利用者の実質的な対等関係を確立するための利用者支援の構築,サービス提供基準と事業者のコンプライアンスルールの確立,選択の大前提となるサービス供給基盤の整備,契約関係で補えない利用者への公的責任の具体化,負担能力に制約されない福祉制度,を挙げている。\r\n(2)懐疑的立場(次善の策論)\r\n 小西は,契約による福祉の本質的問題として,応諾義務違反が起きた場合事後的にしか関わることができないことを指摘し,それは,法的コントロールの及ばない事業者のモラルの問題に終わってしまうことであるとして,福祉領域への契約導入に疑問を投げかけている。しかし,現実的に考えて次善の策として,現在の枠組みの中でよりよい方策を検討しなければならないことを訴えている。\r\n(3)消極的立場(特別法制定論)\r\n ①判断能力が低下しているなど福祉サービスの利用者の特徴を踏まえ,契約内容を規制したり水準を定めたりして契約の対等性を実質的に保障するための特別法の設置が必要になるとする(福祉サービス契約法)。\r\n ②山田は,社会福祉契約は極めて特異な構造を持つ契約であり,サービス利用者は,意思一自己決定一自己責任という民法の掟ではその生存・自律を確保できないこともあり得る。社会福祉契約を論じるには社会法的アプローチによるしかなく,特別立法は不可避であるとする。\r\n〔小括〕契約の本旨は古来から変わらず二人の人間あるいは国家等が誠実に向き合い約束を交わし,その内容を文書にし社会的に認知される形で公表して,互いに誠実に履行し信頼関係を深めていくことである。資本主義社会が成立した段階になると,契約が経済・市民社会の法制度の中心になるが,資本主義の諸問題の発生に対応して社会保障法等の社会法が登場する。また,社会福祉に関わる法制度が整備されていく。このような歴史的変遷と問題状況の中で福祉や介護領域での契約の問題についての考え方が問われている。基本的視点として,①事業者であれ利用者であれ自分が契約当事者となりうることを踏まえて考えるべきこと,②歴史的推移,パラダイム転換の意義を踏まえ,進むべき方法を見定めるべきこと,③社会福祉に何を期待し,どのようにすれば人間としての誇りを保持しつつ必要なときに安心して質の高いサービスを利用できるのか,を熟慮する必要があろう。\r\nV まとめ\r\n 京極は,現代の社会福祉制度は,基本的に共感システムを基底としながらも,福祉国家による社会保障の一環のとして位置づけから強制システムの役割も強く持っている。そのうえ,営利的福祉サービスのような交換システムといった他の社会システムにも規定された多様に絡み合った複合体(サブ社会システム)である。このように,現代社会における福祉システムを理解するためには,三種類の社会システムがどのように関連し,また,それらに規定されながらも独自の特徴を持っているかを見定めることが大切であると述べている。契約を起点とする社会福祉を充実させるために,契約を基調とする交換システムのメリットを最大限生かしながら公による利用者保護や必要なサポートに支えられ,愛と共感に基づいた福祉実践を行うことが期待されているのではないか。\r\n 阿部は,基礎構造改革の最大のポイントを形成概念だと言い,その意味は,今までの福祉は法律や制度によって与えられていたが,今度の改革ではそれを攻めの姿勢に転じさせ,ともかく市民的努力で自立をして助け合いをして連帯を組む,作り上げると言う形にしていくものである。また,それが文化の創造につながるとする。阿部の提言から考察すると,福祉や介護分野における契約のあり方を,単なる市場における売買のための装置や福祉のための手段と考えるだけでは十分でない。契約は,人々が互いに人格として向き合い真摯に話合う機会を提供し,そのことを通して互いの福祉の向上に向けて協働することができるものであり,また,相互の話合いや評価を通して常に更新されていくものでもあると考える。そして,それを通して福祉文化や新たなコミュニティの創造に寄与していく大きな可能性を持っているものと考えることができるのである。\r\n この研究により,事業者が契約を通して積極的に利用者と向き合う関係をつくり,利用者と事業者が,社会福祉の支援が目的とする利用者の抱える問題の解決・軽減,そして福祉の向上のために手を携え協働する関係,信頼関係の醸成を図ることができれば,社会福祉にとって契約が意味深いものとなり,それは,地域社会の福祉基盤と住民のつながりを強化し,ひいては,社会福祉の構造の大転換が意図した利用者本位の福祉社会の確立に貢献できる。\r\n この研究は,契約を通してサービスの質を向上させるための方途を探求する研究の第1歩であり,今回は文献調査により次のステップのための糸口を見出す努力を行ったものである。引き続き研究を継続し,研究・教育の領域はもとより,福祉現場で契約を交わす利用者や事業者・職員にとって意味があり役に立つ成果を求めていく所存である。\r\n\r\n注\r\n注1)厚生省高齢者介護対策本部事務局監修『新たな高齢者介護システムの構築を目指して 高齢者介護・自立支援システム研究会報告書』ぎょうせい 1995年\r\n今後の高齢者像の例を以下のように示している。「今後は,重度の障害を有する高齢者であっても,例えば,車椅子で外出し,好きな買物ができ,友人に会い,地域社会の一員として様々な活動に参加するなど,自分の生活を楽しむことができるような,自立した生活の実現を積極的に支援することが,介護の基本理念として置かれるべきである。」20ページ\r\n注2)上掲『新たな高齢者介護システムの構築を目指して』\r\n「高齢者に対する介護サービスは,その特性からみて,高齢者自らの選択に基づいて提供される必要がある。このため,介護サービスの提供は,高齢者とサービス提供機関の間の契約によることが適当である。」40ページ\r\n注3)・厚生省高齢者介護対策本部事務局監修『高齢者介護保険制度の創設について国民の議論を深めるために<老人保健福祉審議会報告>〈厚生省介護保険制度案大綱>』ぎょうせい 1996年 14~36ページ\r\n・上掲『高齢者介護保険制度の創設について』211ページ\r\n・この他,介護保険法第1条(目的)では,要介護状態にある者が,尊厳を保持し,有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,サービス給付を行う,としている。\r\n注4)本沢巳代子「介護保険サービスの利用契約等に関するアンケート調査」新井誠・秋元美世・本沢巳代\r\n子編著『福祉契約と利用者の権利擁護』日本加除出版株式会社 2006年 63~72ページ\r\n2003年3月10日,福祉契約研究会と東京都が共同実施する「介護保険サービスの利用契約等に関するアンケート調査票」を都内の訪問介護事業所へ送付。有効回答757通(42.3%)契約締結過程では,事業者が困っていることは,「契約内容を理解してもらえないこと」(事業所の6割)「契約内容をすぐに忘れてしまうこと」(5割以上)を挙げ,家族が立ち会ったり(48.4%),家族に対して契約内容を説明する(37.8%)ことが行われてる。\r\n契約書の署名者が本人になっている場合が35%,家族が本人に頼まれて署名する例が25%ある。これに対して,本人の判断能力が落ちているため家族が署名する例が40%を占める。また,訪問介護事業所のうち23%が本人・家族以外の者が署名した経験を持っていた(介護支援専門員103例か多く,その他,友人・親戚,生活保護ワーカー,民生委員,事業所の責任者等)。\r\n一方,契約締結過程で利用者が質問する項目は,サービス内容と料金についてが多いが,事業者は,サービス内容,料金の他,キャンセルや契約内容の変更,解約を重点に説明している。トラブルとしては,介護保険サービスの範囲に関するものが4分3と多く,サービスの内容や手順も4割と多い。\r\n注5)橋爪幸代「契約書サンプリング調査の結果」上掲『福祉契約と利用者の権利擁護』73~82ページ 2003年11月,東京都における介護保険の訪問介護事業所及び介護福祉施設を対象とした契約書のサンプリング調査を実施し,東京都のモデル契約書との比較分析を行った。収集されたのは,訪問介護契約書27,介護福祉施設契約書38である。\r\n訪問介護契約書では,モデル契約書より詳しい契約書が3件あった。訪問介護計画を変更する場合の利用者・家族との協議(2件),介護支援専門員への連絡口件),変更された場合の,利用者・家族等への説明と同意。サービス内容について,介護保険対象サービスとそうでないサービスの具体的規定があるもの(2件),具体的なサービス提供時間や頻度,料金が書かれたもの(1件)があった。モデル契約書では,サービス記録表の控えを交付するよう求めているが,交付の規定のないものが13件あった。モデル契約書では契約終了の2日前までに申し出をすればよいこととなっているが,7日が7件,30日が3件,契約満了日までが1件あった。賠償責任ついて,事業者の免責規定を詳しく規定するものが3件あった。独自規定では,訪問介護員の交替についての規定があるものが3件あった。\r\n注6)脇野幸太郎「モデル契約書と事業者一介護保険指定事業者に対する訪問聞き取り調査の結果から-」\r\n上掲『福祉契約と利用者の権利擁護』83~95ページ\r\n東京都のモデル契約書はもっぱら高齢者である利用者側の権利擁護を主眼にしている。そして,このモデル契約書を過半の事業所が何らかの形で参考にしている。しかし,権利擁護の趣旨がどれだけ生かされているか,各事業者の契約書作成の経緯,現場での使用状況,各事業者における契約書の位置づけや評価など実態面の調査を行った。\r\n2004年8月及び2005年2月に実施。調査に協力した事業者は6件。\r\n利用者への契約内容の説明方法と配慮については,事前に重要事項説明書の説明を行い,また,契約書を事前に渡して読んでおいてもらった上で契約締結時に重点的に説明する方法,各条項ごとに説明する方法の2通りがある。契約書の中で重点的に説明している箇所として,損害賠償と免責事項,契約の終了に関する条項である。利用者は,サービス内容や費用等に関心がありにれらは重要事項説明書の内容に該当),契約書には関心が薄いことが事業者の悩みになっている。\r\nサービス提供における契約の位置づけについて,多くの事業者は,利用者との人間的な信頼関係の構築を強調する。当事者双方にとってなじみが薄い契約の締結は,返っで信頼関係の構築を妨げる結果となってしまうこともある,という見解もあった。\r\n脇野は,このことが,利用者の契約に対する意識と表裏をなしているとし,利用者から契約の締結を堅苦しく面倒に思われたくないため,事業者として,形式的に契約書を取り交わすが,当事者双方に,「契約は契約,サービス提供はサービス提供」と言う認識が生じることとなるとする。\r\n契約書使用に当たって困ったこととして,利用者が契約書の内容を本当に理解したかどうか確認できない,という指摘がある。\r\nモデル契約書の改善については,利用者にとってわかりやすい表現を工夫する,利用者にも契約書の一字一句にきちんとした説明を求める人もいて多様性があり,契約書にも利用者の状態に応じたバリエーションがあってもいいのではないかという意見などがある。\r\n注7)・白井典子「措置から契約への意義」赤沼康弘・白井典子監修『介護保険と契約一「契約」で読み解く居宅サービス運用-』日本加除出版株式会社 2002年 37~63ページ\r\n・平野方紹「事業者と利用者の契約」上掲『介護保険と契約』2002年 193~207ページ\r\n・笠井修「福祉契約と契約責任」上掲『福祉契約と利用者の権利擁護』2006年 23~45ページ\r\n注8)株式会社三菱総合研究所『居宅介護支援事業所及び介護支援専門員業務の実態に関する調査研究』 2004年\r\nこの調査は,介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアマネジメント業務に十分時間を割けないことなどが指摘されていることを踏まえ,居宅介護支援事業者やケアマネジャーの業務の実態を把握し,その支援策を検討するための基礎資料とするものである。\r\n2003年11月,全国2000事業所を層化無作為抽出し,事業所調査,ケアマネジャー調査,利用者調査を実施。有効回収数は事業所696,ケアマネジャー1927人,利用者2533人であった。\r\n3ヶ月に1回記載することを義務付けられているモニタリング記録は,「記録していない」が13,9%ある。対応困難な利用者の有無では,「いる」が76.3%ある。勤務上の悩みで多いのが,「自分の力量について不安がある」(57.1%),次いで,「残業が多い・仕事の持ち帰りが多い」(35.4%)である。業務遂行に関する悩みでは,「困難ケースへの対応に手間がとられる」(44.5%),「ケアマネジャーの業務範囲が明確でない」(31.7%)「業務の責任が重く抱え込んでしまう」(26.6%)の順である。他機関との連携に関する悩みでは,主治医との連携がとりにくいが50.2%と最も多い。業務負担感では,「サービス担当者会議の開催」(51.7%)「モニタリング結果の記録」(39.0%)である。ケアマネジャーとしての満足度は,約5割のケアマネジャーが満足できていないと回答。\r\n注9)社会福祉法人全国社会福祉協議会ホームヘルプサービスのサービス標準化に関する調査研究委員会『ホームヘルプサービスにおける身体介護の標準的な実施手順と所要時間』2000年3月\r\nこの調査は,介護保険制度施行に当たり,介護報酬との関係でサービスを標準化する必要があったこと,また,介護支援専門員が訪問介護を居宅介護サービス計画に位置づけるに当たり,訪問介護の内容と要する時間を見積もる必要があったこと,から実施された。5府県下のホームヘルパーの連続5日間の業務実態を調査票により把握, 1978件の基礎データを得た。そして,業務実態の結果を基にホームヘルパーにより各ケアごとの実施手順と所要時間が検討され,標準化案を検証するため実験事業を経た後にマニュアル化したものである。\r\n注10)月本昭男「人はひとりではない」『無教会研究聖書と現代』2005第8号無協会研修所 1~18ページ\r\n愛の関係は,具体的には,紀元前のエジプトで奴隷として使役されていたイスラエルの民をエジプトからの脱出に成功させ,40年に及ぶシナイ半島の荒れ野における生活を守り導いたことに始まる(出エジプト)と考えられる。また,月本によれば,神と民との関係を夫と妻,父と子としてとらえていることに現れている。\r\n古代オリエント世界においては,二つの民族,もしくは,二人の人間を最も固く結びつけ,円満な関係を持たせるものが契約であると考えられていた。(聖書新共同訳)イスラエルにおいては,契約関係は,シナイ山における神からの十戒の授与と民による受諾の関係(シナイ契約)である。他にダビデ契約もある。また,神ヤハウェがイスラエルの民を選び,民はその選びに応えたということが旧約聖書に繰り返されている。(月本)神の愛と契約の関係では,月本は,「旧約聖書における神の愛は,契約に基づいています。そのことを明確にしたのが申命記です。申命記には,神ヤハウェがイスラエルの父祖たちを愛し,また,それゆえこの民を選ばれたと繰り返されます。また,申命記7章7-8節によれば,ヤハウェがこの民を選ばれたのは,この民が他の民よりも偉大であったからではなく,逆にこの民があらゆる民の中で最も弱小であったからである。」(15ページ)と述べている。\r\n注11)森泉章「序論」遠藤浩・川井健・原島重義・広中俊雄・水本浩・山本進一編集『民法(5)契約総論〔第3版〕』有斐閣双書 1~30ページ\r\n森泉は,「契約は,当事者相互の信頼の基礎の上に成り立っている。契約当事者は,相互に信頼しあい,その信頼にこたえるような行動を基礎としなければならない。これを法的に強制し義務づけたものが,信義誠実の原則である。」(22ページ)「契約の当事者は,たんに個々独立の債権・債務を負担するだけでなく,財貨や労働力の移動・配分を担当する社会的意義のある一つの共同体を構成するものとされる。契約当事者は,相互に信頼しあい相協力すべき関係に立つから,そこにはより密接な結合関係が構成される」(30ページ)と説明し,このことは相互の信頼を基礎とする委任,保証などの契約に特に強く現れる,とする。\r\n注12)本間郁子「利用者が求める介護保険制度と介護サービスの今後」『月間福祉2005.4月号』28~31ページ\r\n本間は,介護保険制度における契約制度の導入について,「相互に契約書が交され,きちんと利用者に交付されるようになったことは評価すべきであり,事業者・利用者双方の意識改革に大きく寄与したととらえています。まだ,出発点ではありますが,これから利用者本位のサービス提供を進めていくうえで大きな意味を持つており,こうした基盤整備は権利擁護のうえでも非常に重要であったと評価しています」。また,情報開示の重要性を説き, 2005年の介護保険法改正で導入された「介護サービス情報の公表」の義務化を高く評価する。そして,介護保険を実のある制度にし,サービスを向上させていくためには,利用者・市民・事業者が同じ方向に向かい,日々努力していくことが求められている,とする。\r\n・上掲。平野方紹「事業者と利用者の契約」『介護保険と契約』193~207ページ\r\n・上掲。笠井修「福祉契約と契約責任」『福祉契約と利用者の権利擁護』23~45ページ\r\n注13)日本弁護士連合会編『契約型福祉社会と権利擁護のあり方を考える』あけび書房 2002年 23~36ページ\r\nこの中で,措置制度から利用制度への改革だけでは,利用者の自己決定や選択権の保障,必要な援助を受ける権利の保障にも直接つながらず,権利保障規定の明確化やサービス供給の整備等の権利擁護システムという基盤整備が必要であることを強調している。\r\n注14)小西知世「契約による福祉と事業者の応諾義務一医師の応招義務を類比してー」上掲 『福祉契約と利用者の権利擁護』1~22ページ\r\n小西は,「契約が福祉の手段たりうるのか」と問い,契約による福祉の本質的問題として,たとえば応諾義務違反が起きた場合,事後的にしか関わることができないことを指摘し,それは,法的コントロールの及ばない事業者のモラルの問題に終わってしまうことであるとして,契約は,利用者に必要なときに必要な質・量のサービスをもたらすことができるかどうか疑問を投げかけている。そして,様々な問題を抱えつつも,次善の策として,現在の枠組みの中でよりよい方策を検討しなければならないことを訴えている。\r\n注15)山田晋「福祉契約論についての社会法的瞥見」明治学院大学社会学会『明治学院論叢第713号社会学・社会福祉学研究117』2004年 67~121ページ\r\n山田は,社会法の概念は多義的であるが,市民法との対立・修正の法領域として規定することに異議はないだろう。一方,社会福祉におけるサービス利用者は,福祉サービスを利用することによって自律を回復するという意味でサービス供給者と従属的関係にある。このため,市場原理に基づき価格(価値)が決定され市場原理の道具である契約には馴染まず,社会法的な対応が必要であるとする論を展開している。\r\n注16)京極高宣『改訂社会福祉学とは何か』全国社会福祉協議会 1998年 21~50ページ\r\n京極によると,社会システムとは諸個人の相互行為によって形成されるシステムのこと。基本的な社会システムには,福祉国家に代表される統合システムは別として,交換システム(市場機構のようにギブ・アンド・テイクの関係を原理とする),強制システム(行政権力のように力による),共感システム(近隣相互扶助や民間福祉活動など)の三種類がある。\r\n注17)阿部志郎・土肥隆一・河幹夫『新しい社会福祉と理念社会福祉の基礎構造改革とは何か』中央法規 2001年\r\n阿部(社会福祉法策定までの中央社会福祉審議会部会長代理)は,「私は,今度の社会福祉法,基礎構造改革の一番大きなポイントはどこかといえば形成概念だと思っています。形成概念の意味は,これまで福祉はお上が全部作るとおもっていたところから,ともかく市民的努力で自立をして助け合いをして連帯を組む,作り上げると言う形にしていくのです。それが文化の創造と言う言葉になってくると理解しているjと語っている。\r\n文献\r\n1)赤沼康弘「契約制度の下における利用者と事業者の権利,義務」『ホームヘルパー平成14年5月号 N0.334』\r\n2)赤沼康弘・白井典子監修『介護保険と契約一「契約」で読み解く居宅サービス運用-』日本加除出版株式会社 2002年\r\n3)阿部志郎・土肥隆一・河幹夫『新しい社会福祉と理念社会福祉の基礎構造改革とは何か』中央法規 2001年\r\n4)新井誠・秋元美世・本沢美代子編著『福祉契約と利用者の権利擁護』日本加除出版株式会社 2006年\r\n5)株式会社三菱総合研究所『居宅介護支援事業所と介護支援専門員業務の実態に関する調査研究』2004年\r\n6)京極高宣『改訂社会福祉学とは何か』全国社会福祉協議会 1998年\r\n7)厚生省高齢者介護対策本部事務局監修『新たな高齢者介護システムの構築を目指して高齢者介護・自立支援システム研究会報告書』ぎょうせい 1995年\r\n8)厚生省高齢者介護対策本部事務局監修『高齢者介護保険制度の創設について国民の議論を深めるために <老人保健福祉審議会報告〉<厚生省介護保険制度案大綱〉』ぎょうせい 1996年\r\n9)国民生活センター『介護契約にかかわる相談の実態』国民生活センター 2000年\r\n10)社会福祉法人全国社会福祉協議会ホームヘルプサービスのサービス標準化に関する調査研究委員会『ホームヘルプサービスにおける身体介護の標準的な実施手順と所要時間』2000年\r\n11)社団法人かながわ福祉サービス振興会編集『介護保険契約業務ハンドブック』中央法規 2006年\r\n12)小規模多機能ホーム研究会編『小規模多機能型居宅介護開設の手引き』全国コミュニティーライフサポート センター(CLC) 2006年\r\n13)炭谷茂編著『社会福祉基礎構造改革の視座』ぎょうせい 2003年\r\n14)高村浩「介護サービスの契約」全国ホームヘルパー協議会編集『市区町村社協介護サービス経営ブックレット③』全国社会福祉協議会地域福祉推進委員会発行 2~18ページ\r\n15)月本昭男「人はひとりではない」『無教会研究聖書と現代2005第8号』無教会研修所\r\n16)東京都国民健康保険団体連合会『月例調査と苦情事例から見た東京都における介護サービスの苦情相談白書 平成15年度』東京都国民健康保険団体連合会 2004年\r\n17)日本弁護士連合会高齢者・障害者の権利に関する委員会編『高齢者・障害者主権の確立のために契約型福祉社会と権利擁護のあり方を考える』あけび書房 2002年\r\n18)橋本正明「社会福祉におけるサービスと利用者一選択・契約・苦情対応等から考える-」『社会福祉研究第92号』財団法人鉄道弘済会社会福祉部 2005年\r\n19)本間郁子「利用者が求める介護保険制度と介護サービスの今後」『月間福祉2005 4 月号』28~31ページ\r\n20)森泉章「序論」遠藤浩・川井健・原島重義・広中俊雄・水本浩・山本進一編集『民法(5)契約総論〔第3版〕』有斐閣双書 1~30ページ\r\n21)山田晋「福祉契約論についての社会法的瞥見」『明治学院論叢第713号社会学・社会福祉学研究117』 明治学院大学社会学会 2004年 67~121ページ\r\n22)渡辺裕美「居宅サービス計画と訪問介護計画」『市区町村社協介護サービス経営ブックレット③』20~43ページ\r\n"}]}, "item_creator": {"attribute_name": "著者", "attribute_type": "creator", "attribute_value_mlt": [{"creatorNames": [{"creatorName": "金井, 守"}], "nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "209", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}]}]}, "item_files": {"attribute_name": "ファイル情報", "attribute_type": "file", "attribute_value_mlt": [{"accessrole": 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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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本文(PDF) (1.8 MB)
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Item type | 紀要論文 / Departmental Bulletin Paper(1) | |||||
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公開日 | 2013-01-21 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | サービスの質を高める契約のあり方についての研究 : 介護契約に関する文献レビューを通して | |||||
タイトル | ||||||
言語 | en | |||||
タイトル | Study of Contract for Providing Better Care-Services : By Review of Documents About Care Contract | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
キーワード | ||||||
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主題 | サービスの質 | |||||
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資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_6501 | |||||
資源タイプ | departmental bulletin paper | |||||
著者 |
金井, 守
× 金井, 守 |
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著者別名 | ||||||
識別子Scheme | WEKO | |||||
識別子 | 1259 | |||||
姓名 | Kanai, Mamoru | |||||
抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 2000年4月の介護保険制度の施行,同年の社会福祉法の成立により,介護及び福祉領域におけるサービスが利用者の選択により利用される仕組みへと変更された。このことは,従来の措置制度における行政処分から権利としてのサービス利用,契約によるサービス利用へと転換するまさにパラダイムの転換による制度変革であった。これにより,サービス提供事業者は,利用者と相対して契約を交わし,契約に基づいてサービスを提供することとなり,そのことは一方では,サービスの市場における競争を喚起しサービスの質を向上させ,利用者から選ばれる事業者となる必要性を生じさせた。従来,介護保険制度における各サービスの運営基準や社会福祉法によって利用者の保護のために規定された諸規制が,事業者の立場からは,利用者保護の必要性を理解しつつも事業者の契約行為に対する制限と受け取られ,契約に対する消極的イメージを払拭できない状況があった。従って本研究では,サービスの質を高める契約のあり方について論じるため,まず措置から契約への制度転換の歴史的経緯とその意義を確認すると共に,民法上における契約の意味を明らかにする。そして,それらを通して,介護サービス利用契約が一般の契約と異なる特徴を整理し,利用者保護の必要性を論じる。次に,既に実施された介護契約に関する調査,介護支援専門員の業務に関する実態調査等の結果を踏まえ,その他の文献から得られた契約とサービスの質に関する視点等から,事業者の契約をめぐる体制,契約締結過程,契約履行過程,契約更新過程等についてその実態や問題点を整理し,契約の概念や理論を概観する。その上で,サービスの質を高める契約の姿・方向性について考察を加え,事業者が契約を媒介し活用して,サービスの質を高める取り組みを行うことができる可能性とその条件を検討する。 | |||||
書誌情報 |
田園調布学園大学紀要 en : Bulletin of Den-En Chofu University 巻 2, p. 41-57, 発行日 2007 |